新人声優の落書き

声優の玉子である私の落書き集。基本声優以外のことばかり書きます。

桃の白濁【前編】

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いつか分からない時間に目を覚ます。
橙色の暖かい光が窓から入り込んでいるから恐らく夕方なのだろう。
この部屋には時計がない。そんなもの必要ない。ここでは時間という概念がない。
今日が何日なのか、ここに来てからどれくらい経つのかも忘れてしまった。

薄桃色のサテンのパジャマが肌に心地よく、このまま眠っていたくなる。
昨日(と言っても恐らく)食べた桃のジェラートの残りがあるのを思い出して、ベッドから起き上がる。
床に足をつけると、足元に冷たくとろっとした物が伝わる。見てみると蜂蜜だった。
蜂蜜は足の指の間を侵食する。むにむにした感触が何だか心地よい。
どうしてこんなところに蜂蜜が広がっているのかと少し考えたが、どうでもよくなってしまってそのまま立ち上がった。
シフォン素材の柔らかな羽織を着てキッチンに向かう。

冷蔵庫からジェラートを取り出す。
細やかなレースの柄が刻まれた硝子でできたパフェグラス。
口をつける部分が波打っていて、ビブラートみたいだと思った。
お気に入りの金色のスプーンを取り出して来て食べる。
うん、やっぱりひんやりしていて甘ったるい。
この過剰な甘さと冷たさが、私の思考を麻痺させる。
何か思い出さなきゃいけないことがたくさんあるのに、思考に霧がかかって考えることができない。
これが朝ごはんなのか晩ごはんなのかも分からない。
前はそんな状態に「このままじゃまずい」という危機感もあったけど、今はどうでもよくなってしまった。
そんなことを感じていたのも、遥か昔のように思える。

ぼーっとしてる間にジェラートが溶けだした。
白味がかった桃色の洪水。
マーブル模様みたいに白と桃色が混ざる。
その様をずっと見ていられる。