新人声優の落書き

声優の玉子である私の落書き集。基本声優以外のことばかり書きます。

誰とでも寝る女:中

私の気分は地の底まで落ちた。
まるで私の足元だけ地獄の底に続く落とし穴が空いたようで、重たい気分が何をやっても体を重くして、それ以降どうやってその場をやり過ごしたのか覚えていない。
もう彼女の顔も見れなかった。何も見れなかった。
いつも一緒に行動してた私たちだったけど、今日は移動教室もトイレも下校も別だった。
歩けなくて、足が動かなくて、学校から家までの道のりが酷く遠く感じた。永遠に着かないような気がした。
やっとの思いで家に着くとベッドに倒れこむようにして眠った。
明日をどうやって生きていけばいいのか分からなくて、もう目を開けたくなかった。このまま今日で時間が止まればいいのにと思った。



翌朝、残酷なことにいつも通りの時間に目が覚めた。
意外と昨日みたいな重い気持ちや絶望感は残っていなくて、倦怠感があるだけだった。
あんなに学校に行きたくないと思ったのに、いつも通りの時間に目が覚めたからという理由だけで何となく学校へ向かった。
だけど、学校に着いてからが地獄だった。
家の方向が真逆な私たちは、唯一登校は一緒にしていなかった。
そして彼女は平気で遅刻したり遅刻ギリギリに来たりしていた。
いつものごとく、彼女は待てども待てども来ない。
いつもでさえ彼女を待つ時間がじれったいのに、今日は拷問のように感じられて学校に来たことを後悔した。



彼女は昼休みの時間になってやっと来て、気だるそうにあくびをしていた。
彼女の素行の悪さに慣れたのか呆れたのか先生たちも形だけの注意しかしない。
彼女の顔を見れない。いつも彼女とどんな風に接していたっけ。分からない。
努めて自然におはようと言うと「もうお昼でしょ」と言われてしまった。
何やってんだ私。予想してなかった返答に軽いパニックになる。
話題を変えようと、弁当食べようよと言った。
すると彼女は「いい。食べてきたから」とだけ答える。
彼女のほうはいつもと何も変わってないのに、なぜかいつもより冷たく聞こえる。
「そっか」とだけ答え弁当を食べ始める。

その時運悪く昨日の男子が彼女を見つけ、「おーー!ビッチ、お前重役出勤かよ」と大声で揶揄した。
さぞかし不機嫌になるだろうと思ったが、彼女は顔色変えず「そう。今日のやつしつこかったんだ」と答えた。
男の下品な軽口を相手にしたのもビックリしたし、私よりも男子との会話のほうが生産的な感じがして困惑したし無性に腹が立った。
もしかしたら彼女は、ビッチとか尻軽とか、一般的に蔑称とされてる言葉を言われるのが好きなんじゃないだろうか。
心なしか男子に話しかけられて表情が柔らかくなった気がするし、むしろビッチであることを誇っているかもしれない。
そして何より、昨日の「女は無理」というまるで蚊を払うような軽すぎる拒否によって、告白する間もなく私が振られるのは到底納得できない。
そしてそれがこんな下品な男の下品な軽口が発端になったなんてことも、到底受け入れられない。
だから確かめなきゃ仕方なかった。私が本当に性的な対象にならないのか。私に性的な価値がないのか。

彼女との関係がこれっきりになることを覚悟して、訊くことにした。
「ねぇ、昨日さ、男と寝るのはただの性欲処理で、そこに恋愛感情はないって言ってたよね」
「うんそうだよ」
「ただの性欲処理だったら、女とでもできるんじゃないの?」
「またその話ー?なんでそんなに女とセックスさせたがるの?」
「私とは付き合えないの?」
「・・・」
「私女とはキスできないんだよね」

私のことを一瞥もせず彼女は言った。
私はこれまでの人生で最悪な気持ちになった。裸にされてお前に価値はないと言われ石を投げられてる気分だった。
おかしいおかしいおかしい!だって、私は見た目だって悪くないし、成績だって良いし、何より、一人で寂しかった彼女に話しかけてあげたのに!!
なんで私が振られなきゃいけないんだ!こんな尻軽女なんかに!
男が「えーお前こいつのこと好きだったん?良かったじゃん病気もらわなくて」と言った。
「てか前から気になってたんだけどさ、なんで2人っていつも一緒にいんの?全然タイプ違うっていうか、そもそも全然仲良くないじゃん!お前がこいつの後にひっついて、金魚のフンみたい」
そう言われた途端、感情の糸が切れて気づけば男を殴っていた。
男は殴られた衝撃で床に倒れた。私はその上にまたがって殴り続けた。手に血がついたのが不快だったが、止まることができなかった。